名古屋地方裁判所 昭和25年(ヨ)176号 決定
申請人 安藤義男 外十二名
被申請人 東京護謨株式会社
一、保証 無保証
二、主 文
被申請人会社が昭和二十五年四月二十二日申請人等に対してなした解雇の意思表示は本案判決確定に至るまでその効力を停止する。
三、理 由
当事者双方の主張に対する当裁判所の判断の要旨は次のとおりである。
(一) 昭和二十四年六月二十日附協定の効力について、
本件解雇の効力を判定するに当り最も重要な意義を有する昭和二十四年六月二十日附協定は、協定当事者の署名を欠いている故、まず右協定の効力の点について考察する。
現行労働組合法第十四条によれば、労働協約はこれを書面に作成し且つ両当事者が署名することによつてその効力を生ずる旨規定しているが、右は労使双方の最後的意思の確認方法として特に厳重な方式を要求し後日協約の成立及び内容につき粉争を生ずることを防止しようとする法意であるから、右にいわゆる署名とは自署を意味し記名捺印をもつて代えることを許さない趣旨と解せられる。しかし一方改正前の労働組合法(昭和二十年法律第五十一号、以下旧法と称する。)においては、両当事者の署名を要件とせず単に書面に作成することによつてその効力を生ずるものとされていたから、旧法時に成立した労働協約はその協約書に両当事者の署名がなくても、その有効期間中は現行法施行後もその効力を失わないものと考うべきである。ところで現行労働組合法はその附則第一項にもとづく昭和二十四年政令第二百一号をもつて同年六月十日から施行する旨定められ、右政令は同年六月九日付をもつて公布され公布の日から施行せられたのであるが、右政令を掲載した同年六月九日附官報号外第八十号は印刷庁において六月二十二日に印刷し翌二十三日その発送手続を了したことが明かであるから、右政令が現実に国民に周知せられたのは同日以降であるといわねばならず、従つてその公布の効力は右官報の発送手続完了の日たる昭和二十四年六月二十三日にはじめて発生し、現行労働組合法もまた同日以後拘束力を生じたものと称するの外はない。してみると本件昭和二十四年六月二十日附協定はまさに旧労働組合法の適用を受けるべきものであり、右協定が書面に作成せられている以上、当事者双方の自署を欠く欠陥あるに拘らず、その労働協約としての効力を保有するものと解せねばならぬのである。
(二) 諮問手続の履行について
前記昭和二十四年六月二十日附協定第二項によれば、被申請人会社がその従業員を解雇するためには、右従業員をもつて組織する労働組合に対し予め諮問せねばならぬ旨規定しているから、次に右諮問手続の履踐の点について検討しよう。
被申請人会社はその従業員たる申請人等を解雇するに先だち、昭和二十四年四月二十二日労働組合の大会に臨んで申請人等の解雇につき協定所定の諮問手続を履行した旨主張するけれども、申請人等提出の疏明資料によれば右諮問手続は極めて不完全であつたことを窺うに十分である。すなわち前記組合大会は被申請人会社の諮問に答える目的で召集せられたものでないのみならず、右諮問手続は未だ組合大会が開会せられる前に組合員の集団に対してなされたに過ぎず、しかも右諮問手続においては一部少数組合員が会社の提案に賛成したに止まり他の多数組合員は未だその意向を表明する暇を与えられず、手続はきわめて倉惶として一方的に強行せられたことを認めることができるのである。しかしてこのような不備な手続をも正当化するに足る程緊急やむを得ない事情が当時被申請人会社に存したことは、被申請人提出のいずれの資料によつても疏明するに足らないから、右程度の手続の履践をもつては、被申請人会社が申請人等の解雇につき組合に諮問したものとは言い得ないのであり、被申請人の主張は採用することができない。
(三) 協定第二項に違反してなされた解雇の効力について
解雇は労働者にとつてその労働契約関係を終了せしめる意味において最大の待遇変更であり、解雇の条件こそ労働者にとつてその中最も重要な労働条件をなすものであるから、かかる解雇の条件を定めた労働協約の部分はいわゆる規範的部分に該当し、解雇の有効要件をなすものと解するを相当としよう。しかして本件協定第二項の規定は従業員の解雇の条件を定めたものであつて、単なる債務を設定したものではないから、同項所定の諮問手続を履践せずしてなされた申請人等に対する解雇処分はついに無効といわねばならない。
(四) 仮処分の必要について
申請人等は賃金労働者であつて本件解雇によりその収入の途を絶たれ、しかも他に生計の方法を立てることが極めて困難な事情にあり、申請人等及びその家族は右解雇無効確認訴訟の本案判決確定までその生活を維持することの容易でないことは同人等提出の疎明資料によつてこれを窺うに十分であるから、本件仮処分申請はその保全の必要をも具備するものと認めることができる。
よつて申請人等の本件仮処分申請を理由あるものとして許容し、主文のように決定した次第である。
(裁判官 山口正夫 奥村義雄 杉山克彦)